
2023年の救急車出動回数は、約763万8千件と消防庁のデータにあります。搬送人数はおよそ664万人で、件数・人数ともに前年より数%ずつ増えています。
今回、縁あって現役消防士さんにお話をお聞きすることができました。救急車に乗ったことがある方も、無い方も、今後の参考にしてください。
Q. 救急車を呼ぶかどうかの判断基準を教えてください。
A.自分で動けるとき、ご家族や近くにおられる方の肩を借りて歩けるときは、できるだけタクシーや手助けしてくれる方が運転する車で、救急病院に行ってください。
また、子どもさんの具合が悪いときは、親御さんが抱っこして病院に行ける状態であれば、救急車を呼ぶ前に、タクシーやご家族の車をお使いください。
「どこの病院に行ったらいいか、わかりません」という場合は、119番受付者にその旨をお伝えいただくと、「夜間当直の小児科」をご案内いたします。
Q. 救急車のサイレンを鳴らさないように来ていただくことは、できますか?
A.サイレンは緊急走行時に、周囲の車やバイク、自転車、歩行者などに注意を促す意味もあり、基本的には鳴らして走行します。
訪れる場所がはっきりとわかっていて、お家の前の道路で「ココです」と手を振って合図されているような場合は、部屋を明確に確認できた時点でサイレンを止める対応は可能です。
Q. 救急車を呼ぶと、お金がかかりますか?
A.お金はかかりません。病院で支払っていただくのは治療費であり、救急車の出動費用ではありません。
一説によると「1回の出動で、平均して約45,000円のコストがかかる」と検索できます。救急車購入費用、メンテナンス費、ガソリン代、医療機器や医薬品等の購入費用、消防隊員の人件費などがこれに含まれ、財源は国の交付金や地方自治体からの補助金が充当されています。
「お金がかからないなら」と安易な判断で、救急車をタクシー代わりに呼ぶのは控えましょう。
Q. これまでに、最も軽微な出動は?
A.119番に連絡された際に大袈裟に言って救急車を呼び、結果として「足のかかとのひび割れが痛い」「深爪をして痛い」「薬局に薬を買いに行くから乗せて行って」などによる要請だったこともありました。
限られた救急車の台数を、軽微な症状の人が呼ぶと、本当に重症な人のところへいち早く駆けつけることが出来なくなります。良識ある判断をしてください。
Q. 救急車で病院に行くと、最優先で診てもらえるのですか?
A.そう思っておられる方が意外に多いのですが、決して救急車による搬送者優先ではありません。実際は救急外来の窓口で患者さんの状態を見て、優先順位を判断されます。
「早く見てもらえるように、救急車を呼ぶ」という考えは、控えてください。
Q. 救急隊の人は、靴を履いたまま家に上がられますか?
A.靴は玄関で脱ぎます。履いたまま室内に上がることはありません。
ペットの多頭飼いにより死骸や糞が散乱している、ゴミ屋敷で足の踏み場がない状態など、靴を脱ぐのが危険と判断した際は、靴を履いたまま室内に上がることがあるかもしれません。その際も基本的に、ご家族の了承を得て靴のまま上がらせていただきます。
Q. 救急車を呼んだものの、症状がひどくて鍵を開けられないようなとき、どうやって中に入られますか?
A.ドアに鍵がかかっていたら、どこか窓が開いていないか探します。どこも開いていなければ、ドアの鍵を壊すか窓ガラスを割るか、後で修理する際にコストの安い方法で室内に入ります。
オートロックのドア修理は10万円以上、ガラス交換だけなら1万円前後? 瞬時にそんな判断もしています。
Q. 救急車に乗せていただいたとき、少しの振動でも身体に響いてしんどかったです。あの振動は、何とかならないのでしょうか?
A.大きくて重量のある救急車を支えるタイヤもしっかりとした硬いタイヤが使われています。救急車のベッドは快適性より安全性が重視され、ケガや病気の人にはしんどいこともあるかもしれません。
振動が気になる際は、消防士に「〇〇が痛いから、タオルを敷いてください」と遠慮なく言ってください。
Q. 病院へ運んでいる途中で亡くなられたりすることはありますか?
A.① 患者さんの意識レベル(JCS)が最重度の300に、どれくらいひっ迫しているか ② 瞳孔散大 ③ 対光反射なし ④ 自発呼吸なし ⑤ 心音確認なし ⑥ 心電図フラット(心停止) 以上の全項目を満たして、初めて「死亡している」と判断します。
搬送中に患者さんの状態を見ながら、原則、心肺蘇生の措置を行います。具体的には心臓マッサージ・人工呼吸・アドレナリン点滴・気管内挿管などを行います。
Q. 運んで欲しい病院を指定することはできますか?
A.仮にかかりつけ医がおられたとしても、その病気以外の症状があれば、患者さんの状態を観察し、病院選定の判断をします。
病状やケガの状態を見て、救急病院、当番医の在院状況などで判断することもあり、病院が「受け入れ」を了承されないと、運ぶことが叶いません。
Q. とても良くしていただいたので、お礼をしたいのですが、受け取っていただけますか? どのようにするのが望ましいですか?
A.消防署に直接、御礼のお金や商品券、ビールやジュースなどお届けくださることがあります。しかし、すべてそのままの状態でお返しすることになっています。
せっかくのご行為に対し申し訳ないのですが、消防士は地方公務員であり、物品をいただくことは禁じられています。
反面、お礼ハガキを頂戴したり、電話やメールでメッセージをいただいたりすると、うれしく思います。日時や患者さんご住所・運ばれた病院などの情報から該当消防署を判別し、担当した署員にメッセージを伝えます。
一命を取り留めるお役に立てたこと、感謝していただけたことなどは、消防士にとって仕事の大きな励みになります。
Q. では、「ありがとう」を伝えるタイミングは?
A.救急車から降りるとき、同乗された方からお礼のお言葉をいただくことはあります。が、一般的に救急車が病院に着くと、患者さんはストレッチャーに乗せられ慌ただしく検査が始まります。
同乗者の方も困惑されていて、それどころでは無い状態です。「ありがとう」のお言葉が無くても、何ら問題はありません。
Q. 消防士さんと救急隊員さんは違うのですか?
A.消防士が救急車に乗っているとき「救急隊員」と呼びます。
消防士は救急車内で観察などの処置はできますが、救急救命士と比べてその範囲が限られています。
「救急救命士」は医学的知識を学び資格を取得した隊員で、蘇生行為を行います。
救急車のこと、救急救命士さんのこと、消防士さんのこと、少しわかっていただけましたか?
救急車で病院に搬送された人のうち、約7割以上は入院せず帰宅しているそうです。
安易に救急車を呼ぶことは、医療財政のひっ迫を招き、地方自治体の赤字を増やすことになりかねません。本当に必要な人のところへ救急車が速やかに行けるよう、119をプッシュする前に、一度、冷静になって判断してください。
消防士さん、救急隊員さん、救急救命士さん、日々の真摯なご対応ありがとうございます。
